2024年3月30日号
多種共存の森を目指し
「人とクマが棲み分けるための森づくり」講演会

photo  一般財団法人・日本熊森協会 秋田県支部(井阪智支部長)は16日、南外ふるさと館で講演会「人とクマが棲み分けるための森づくり」を開いた。東北各地から約80人が参加。40年にわたって杉人工林の混交林化による生態系サービスの変化を研究している、東北大学名誉教授の清和研二さんを講師に迎え、クマと人が棲み分けながら共生するための森づくりについて考えた。
 講演に先立ち、井阪支部長は「当講演会開催のきっかけは、去年の県内におけるクマの大量出没。なるべくクマを殺さずに人身被害を減らし、クマと共生していく道はないかと考えた。そのためには彼らの棲息地である森の環境をきちんと見る必要があると考えていた時、清和先生の本と出会い、当県の抱える現状や課題の解決策になりうると思った。今日はそれぞれの立場を超えて、これからの森づくりをみんなで考えていく場にできればと期待している」とあいさつした。
 クマと人との関係は一朝一夕に解決できる問題ではなく、両者の関係だけ考えていても見えてこないことがある、と話す清和さん。本来の森の姿を取り戻した先にどのような循環が生まれ、山里に暮らす人と森との関係がどう変わっていくか、長年の研究成果をもとに詳しく解説した。
 清和さんはこれまで、実験地である杉人工林の間伐度合いを変えてエリア分けしながら、杉と広葉樹との混交林化によって各間伐エリアの生態系サービス等がどのように変化するか比較研究を行ってきた。研究によると、杉人工林に広葉樹を混ぜることで水質が浄化され、窒素が循環して、森の生産性は向上する。洪水・渇水を防ぐ効果もみられ、野生動物の安定した採餌場所ともなる。
 清和さんは杉林にクリを混交させるメリットについても言及。クリはブナ等に比べ豊凶の波が少なく、実も多く採れることから、杉林の中にクリの大径木があればクマが森の中にとどまるかもしれないと話した。
 「いまの森は人間が作ったやせ細った森。山には巨木がないしクリもない。クマにとって本来の棲みやすい森になっていない状況で、クマだけを怒ってもしょうがない。昔あったようなクマが棲める森を取り戻す必要がある」と述べ、その上で狩猟や森の恵みを生かした地場産業の必要性を説いた。
 清和さんは「これからの森林には広葉樹林の大径化と多様性の回復が必要。色んな樹種が本来の生態系として交じり合った、その地域固有の多様性を目指すこと。多種共存の巨木林を作ることで森の生態系サービスや水源涵養機能が高まり、窒素循環がうまくいって、森の生産量が維持される。クマの生育場所も出来上がる」と語った。
 秋田市から参加した60代女性は「都会に住む友人からクマを殺すのはかわいそうと言われることもあるが、自分はクマを撃つことがいけないとは思わない。クマを撃つのがかわいそうという人がいるなら、その意見も聞こうと思って今日は来た。クマ問題の背景にある森について、専門家の方から詳しく教えてもらえて良かった」と話した。

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※写真は
東北各地から80人あまりが参加
講演する清和さん
各間伐の水質浄化のプロセスを解説

詳しくは2024年3月30日(土)号をご覧下さい。
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